本展は、2020年11月に発売となった写真集「都市の肌理」の出版記念巡回展で す。 一見すると何も語り出しはしない、無記名の都市のパーツの連なりの写真た ち。 これらの写真は、現代を生きる私たちを取り巻く日々慣れ親しんだ風景です。 作者である川村恵理は、都市の構成物が受け止めてきた幾重にもなる遷移を想 像した事から、一秒たりとも同じ瞬間を持たない我々の生きる世界に思いを馳 せました。 止めどなく運動するこの世界を、人体が持つ代謝機能になぞらえる事により、 肌を持たないはずの都市の「肌理」とも言える風景が浮かび上がってきます。 渋谷の街の一端を収めたこの作品は、COVID-19感染拡大前の2019年冬に撮影さ れました。街の風景に人の気配はなく、その後の世界の変容を示唆していたよ うにも感じられます。
写真家 川村恵理は、1988 年千葉県で生まれ、スタジオ勤務・写真家 久家靖秀 氏の助手を経て 2017 年よりフォトグラファーとして独立しました。これまでク ライアントワークを中心とした活動でしたが、第 1 作目である今回の写真集出 版により、作家としての活動もスタートさせました。今作をきっかけとして、日 常の身体感覚からイメージを想起し、その仮説を写真にして発表していく事に 可能性を感じています。