渡辺八畳は詩人、河野あさみ(あおいうに)は画家です。詩人と画家、文字と絵具、使用する道具や方法は全く異なります。しかしそれは東京―大阪間の移動に新幹線を使うか飛行機を使うか程度の違いではないでしょうか。各々が見据えているものが同じであれば、過程は違えど到達する地点は一致します。幸い、渡辺と河野はどちらもが各々の創作によって純粋な「美」を追い求めるアーティストでした。
古代ギリシャの哲学者・プラトンが提唱したイデア論曰く、万物は天上界(イデア界)にあり、現実世界からはそれ自体を見ることはできません。現実世界にあるのはあくまでイデア界にあるものの二次的存在であり、たとえるなら洞窟の壁に映った影です。つまりこの世にいる以上完全な「美」を見ることはできません。だとしても「美」へ限りなく近づくことはできるでしょう。その手段の一つが、影を壁に映す松明を増やし、影の形をより詳細にすることです。渡辺は詩、河野は絵という松明を持っています。そしてその松明を向ける先は同じです。
合作にて探った「美」を楽しんでいただけたら幸いです。
【展示 くせけせの面】
■期間:2021年2月11日〜2月28日
河野あさみ(あおいうに)
1991年茨城県生まれ。東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。
2014年「現代美術史 日本篇」(中ザワヒデキ著)に「新しい表現主義の形」と紹介される。2015年ターナーアワード2015で未来賞。
2017年「ブレイク前夜〜次世代の芸術家たち〜」(BSフジ)に出演。2018年コマーシャルギャラリー「Art Lab TOKYO」の所属作家になる。同年ワンダーシード2018に入選。
2020年『美術の窓』5月号にて「ネオ抽象の旗手」と紹介される。2021年に以前の名義「あおいうに」へと戻す。
渡辺八畳
1995年福島県生まれ。福島大学人間発達文化学類文化探求専攻国語科卒業。詩誌『詩人第7世代』代表。
2016年「福島を詩の街に」入選。2017年福島県文学賞文学賞詩部門にて奨励賞を受賞。2018年第1回福島県現代詩集を受賞。
2018年雑誌『詩と思想』現代詩の新鋭に選出。同年『詩と思想』にエッセイ「描く書く各々拡張す」が掲載。
2019年詩集『姉妹たちに』を上梓。2020年伊藤静雄賞にて佳作。同年詩集『非現実の人たちへ』上梓。