たとえば、包丁を手にして野菜を刻みます。初めての頃はぎこちなく、ゆっくりとしかできなかった動作も、次第に慣れて、リズミカルに思い通りに切れるようになると思います。人によって人のために作られた道具と、道具を手にして作り直された人が、そこにはあります。この関係は、触れられる物、実在する広がりに限ったことではないでしょう。わたしたちがいま、人、として呼んで理解しているその、人とは、どこまでの領域のことなのでしょうか。純粋な、裸の人間をイメージしても、それは自分とはすっかり遠く離れていることに気がつきます。